前回は、キャリアの羅針盤=「ミッション・ビジョン(MV)」は、単なる「目標(Goal)」ではなく、「一見バカバカしいほどのユニークな夢」であるべきだというお話をしました。 しかし、いざ「夢を描け」と言われても、ペンが止まってしまう人がほとんどでしょう。
連載第2回となる今回は、なぜ私たちは自分のビジョンを描けないのか、その壁を突破する方法について、下村昭彦先生が2013年に体験した**「ある対話」**から紐解きます。
■ 「ひとり」では自分の価値に気づけない
下村先生がインタビューで明かした残酷な事実は、**「ユニークなビジョンは、ひとりでは作れない」**ということです。
自分の頭だけで将来を考えると、どうしても「先輩のキャリアパス」や「医局の常識」に思考が縛られ、無難な答えしか出てきません。自分の背中が自分に見えないように、自分の本当の価値観も、自分ひとりでは見えないのです。
実は下村先生自身も、最初から明確なビジョンを持っていたわけではありません。 2013年にJ-TOPの研修(JME)に参加した当初、先生が書いていたビジョンは、今振り返れば「ただのゴール」に近いものでした。それを劇的に変えたのは、5週間の研修期間中に行われた、米国のメンターたちとの徹底的なディスカッションでした。
■ 「先生にとって大事なのはこれなんじゃないの?」
当時のメンターの一人である上野直人先生(現J-TOP代表理事・ハワイ大学がんセンター教授)は、下村先生の話を聞いてこう問いかけたそうです。
「話を聞いていると、先生にとって本当に大事なのは、こっちなんじゃないの?」
その一言で、ハッとしたといいます。 自分では「当たり前すぎて価値がない」と思っていたことや、心の奥底に隠していた「薬で治したい」という純粋な欲求が、他者の視点によって掘り起こされた瞬間でした。
「メンターとの対話を通して、あ、そうなんだ、自分はこれがやりたかったんだと、自分でも気づいていなかったことに気づけるようになったんです」
■ メンターは「鏡」である
メンターとは、正解を教える「指導者(Teacher)」ではありません。自分自身を映し出し、思考の死角を照らしてくれる**「鏡」**のような存在です。
もしあなたが今、「自分には大した強みがない」「やりたいことがわからない」と悩んでいるなら、それは能力がないのではありません。単に、あなたを映す「鏡(メンター)」を持っていないだけなのです。 自分だけの羅針盤を手に入れるためには、机に向かってうんうん唸るのをやめて、まずは誰かに自分のモヤモヤを話してみること。それがすべてのスタートラインです。
「でも、そんな相談相手は職場にいない」 そう思ったあなたへ。次回は、下村先生流・職場にメンターがいない医師のための、明日から使える「メンターの探し方」をご紹介します。
(第3回へ続く)