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日々の診療や業務に追われ、「気づけばまた1年が過ぎていた」「専門医は取ったけれど、この先どう働けばいいのかイメージが湧かない」。 そんな閉塞感を感じている医療者は少なくありません。もしあなたが今の働き方に「出口のないトンネル」のような感覚を持っているなら、それは能力不足ではなく、自身のキャリアにおける**「羅針盤」**を持っていないだけかもしれません。

J-TOP(Japan TeamOncology Program)広報委員会がお届けする本連載では、当プログラムのメンターであり、腫瘍内科医として活躍する下村昭彦先生の実践をもとに、燃え尽きないキャリアを作るためのヒントを紐解きます。

■ それは「目標」になっていませんか?

「ミッション・ビジョン(MV)」というと、病院の理念として掲げられているような、少し遠い言葉に聞こえるかもしれません。しかし、下村先生が実践しているMVは、個人のキャリアを支えるもっと泥臭く、実用的な道具です。 下村先生は、多くの若手医師や医療者が陥る**「ある間違い」**を指摘しています。

それは、ビジョンを聞かれて**「5年以内に専門医を取る」「来年までに論文を3本書く」といった答えを出してしまうこと**です。

これらは具体的で素晴らしいことですが、下村先生によれば、これらはビジョンではなく**「達成可能なゴール(目標)」**に過ぎません。 「多くの人が、ビジョンという名前をつけて『ただのゴール』を書いてしまっているんです」

■ 「バカバカしいほどの夢」が自分を支える

では、本当のビジョンとは何でしょうか? 下村先生の定義は非常にユニークです。それは**「一見バカバカしいほどの、本当に実現できるかわからないような夢」**でいいのです。

例えば、下村先生自身のビジョンは**「薬だけで乳がんを治す」**という、極めてシンプルかつ壮大なものです。 今の医療技術や常識で考えれば、「そんなの無理だ」と笑われるかもしれません。しかし、この「北極星」があるからこそ、日々の研究で壁にぶつかったり、論文がリジェクトされたりしても、一喜一憂せずに走り続けられるのです。

この羅針盤は、日常の判断にも役立っています。 下村先生は現在、抗がん剤治療だけでなく、副作用をケアする「支持療法(サポーティブケア)」の研究にも力を入れています。一見、新薬開発(Cure)とは違う分野に見えますが、先生の中では**「薬をうまく使いこなして治すためには、支持療法が不可欠だ」**という形で、ビジョンと完全に繋がっています。 大きなビジョン(北極星)があるからこそ、目の前の多様なタスクが「雑用」ではなく「夢への通過点」に変わるのです。

■ 5週間、悩み抜いた末に

今でこそこう語る下村先生ですが、最初から立派なビジョンを持っていたわけではありません。 2013年にJ-TOPの研修(JME)に参加した当初は、ご自身も漠然としたものしか持っていなかったといいます。

「5週間の研修期間中、メンターと毎週ディスカッションをして、試行錯誤しまくりました。最初はカッコいいことを書こうとしていたけれど、削ぎ落として、ブラッシュアップして、ようやく今の形になったんです」

トップランナーである下村先生でさえ、自分の羅針盤を見つけるのにもがき苦しんだ時期があったのです。 もし今、あなたが「自分には大それたビジョンなんてない」と思っていたとしても、焦る必要はありません。それは、机の上で腕を組んで、たった数分で思いつくようなものではないからです。

では、どうすれば自分の中にある「ユニークな原石」を見つけられるのでしょうか? 下村先生は**「ひとりでは絶対に作れない」**と断言します。

次回は、なぜ自分のビジョンを描くのに「他者」が必要なのか。J-TOPの研修で下村先生が体験した、メンターとの決定的な対話についてお話しします。

(第2回へ続く)